その辺からゲットしたもの

小池 良次(在米、ITジャーナリスト)
 最近は、インターネットB2Bブームも色あせ、一般マスコミを賑わせるようなB2Bニュースにも、ほとんどお目にかかることがない。しかし、インターネットB2Bは、技術面でも着実に進歩しており、その波及効果も確実に広がっている。今回は、ウェブからの脱皮をはかるインターネットB2Bを追ってみよう。
◆第一次インターネットB2Bブーム
 インターネットB2Bの走りは、アリバやコマースワンが開発したプロキュアメント・オートメーション・ソフト(調達合理化ソフト)だった。90年代前半、ウェブというオープンなインターフェイスが生まれ、分厚いカタログと、ファックスや電話を使った調達作業が、こうした調達合理化ソフトによって代替されて行く。また、調達管理や経理ソフトなどを得意としていたERP(基幹業務パッケージソフト)ベンダーは、こうしたオープン・インターフェースへの対応に遅れを取り、コマースワンなどの新興企業と大幅な提携を展開した。これが第一次インターネットB2Bブームだった。その後、調達合理化ソフトは、既存のERPCRM(顧客管理ソフト)との連係を深める方向に発展して行く。
 観点を変えると、第一次ブームはヒューマン・インターフェースの合理化に依存していた。つまりHTMLを主体とした「サーバー対人」のデータ通信を合理化する方向だ。ところが、B2Bの大部分は「サーバー対サーバー」通信によって成り立っている。HTMLは、人を対象にした記述言語であり、サーバー間通信には不向きだ。こうしてHTMLが技術的限界にぶつかると、業界はアプリケーションが理解できるXMLおよび、その通信様式SOAPの開発へと進んで行く。このXML/SOAP整備競争では、CRMベンダーもERPベンダーも自社アプリケーションへの取り込みを積極的に展開する。こうしてERPベンダーやCRMベンダーは独自の調達合理化系ソフトを構築し、コマースワンやアリバなどをキャッチアップした。
◆第二次インターネットB2Bブーム
 一方、コマースワンやアリバなどは、調達系からマーケット・プレイス(取引市場)系へと新展開をはかった。従来の調達ソフトは「1対N」を対象に構築されていたのに対し、取引市場系では「N対N」と言う複数企業同士の調達環境を構築する。これが1999年をピークとした第二次インターネットB2Bブームだった。とはいえ、この取引市場系ソフトも「サーバー対人」のデータ通信から脱皮したわけではない。しかも、単純な価格比較を嫌う販売側の反発で、取引市場サイトは伸び悩むことになる。
 また、CRMベンダーがPRM(Partner Relationship Management、取引先管理ソフト)やSRM(Supplier Relationship Management、調達先管理ソフト)でバックエンドに参入し、ERPベンダーがCRM分野に進出すると言った具合にベンダー間の相互参入が繰り広げられているが、本質的に現在のインターネットB2Bは、アプリケーション間を結ぶ方向に進んでいる。つまり脱ヒューマン・インターフェースに向かっているわけで、ここでの主役はEAI(Enterprise Application Integration)ベンダーで、その成功の鍵を握るソフトウエア手法がウェブ・サービスといえる。
EAIとウェブ・サービス
 大企業にとって、現在の企業情報システムは複雑で、アプリケーションの統合は難題だ。顧客サイドのシステムでは最適な結果でも、調達や生産に大きな障害になる場合もあるし、その逆もある。それぞれのアプリケーションを事業部あるいは全社レベルで最適化することがEAIの使命と言える。
 もちろんEAIを使って、CRMやSCM(Supply Chain Management)、ECアプリなどを統合することは、並大抵の努力ではない。アプリケーションの設計思想は千差万別で、しかも頻繁に変わる規格や業界標準によって同じアプリでも導入時期が違えば、内容も違う。最近は、ティブコ(Tibco Software)、シービヨンド(SeeBeyond Technology)、マイクロソフトIBM、ウェブメソッド(webMethods)、BEA(BEA Systems)など力のあるEAIベンダーが出現し、つなぐだけからより最適化を目指す段階まで達しているが、まだまだEAIによるアプリ統合は高度なレベルと言えよう。そうしたなかウェブ・サービスの出現はEAI業界に大きな波紋を広げている。
◆新インターネットB2Bブーム
企業の情報システムは、サプライ系とディマンド系そしてEAIを軸とするオープン・ネットワーク・インフラという3つの分野に大きく分かれる。これからのインターネットB2Bは、このオープン・ネットワーク・インフラを軸に展開されようとしている。
 オープン・ネットワーク・インフラには3つの機能がある。まず、アプリケーションが相互にコミュニケーションできるようにする「インタラクティビティー機能」がある。たとえば、顧客が一旦発注した商品をキャンセルする場合、顧客対応センターの顧客データ・ベースが、うまく経理の売上げ管理アプリと情報交換ができなければならない。
 一方、それぞれのアプリケーションを最適化したからと言って、企業全体の目的と一致するわけではない。「市場占有率優先」とか「売上げ最大化」「利益の最大化」など、目的にそってルールを設定し、アプリ相互の調整を行うのが「ビジネス・ロジック機能」だ。もちろん、EAIアプリケーション自身が、こうした高度な経営判断を実行するわけではない。BI(Business Intelligence)などの経営判断支援ソフトと併用しながら、EAIのビジネス・ロジックは働くことになる。そして3番目のEAI機能が、「オープン・ネットワーク機能」で、これにより工場や△店、外注先や決済機関と言ったネットワークの向こうにいるアプリケーションとのやり取りを司る。これら3つの機能はインテグレーション・サーバーにまとめられ「e-ビジネス・インフラ」とか「ウェブ・ビジネス・プラットフォーム」などと総称される。
 従来、それぞれの情報はEAIなりビジネス・ロジック・アプリケーション固有のデータとして記述されてきた。しかし、今後はXMLで取り扱う方向にある。つまり、XMLSOAPをベースとしたウェブ・サービスは、アプリケーション間通信を促進させ、取引先や調達先のアプリケーションを統合する本格的なインターネットB2Bを目指している。
 こうして考えると、米国ソフトウエア業界で現在大きなブームとなっているウェブ・サービスは、インターネットB2Bにおける脱ヒューマン・インターフェースの動きであり、新たなB2Bブームとも言えるだろう。